元夫が亡くなったら養育費の支払いはどうなるのか?

こんにちは、函館の行政書士 小川剛弘です。
子どもがいる夫婦が離婚する場合、養育費について取り決めをすると思います。
養育費は、子どもが健全に成長していくために欠かせない大切なお金です。
多くの場合、「子どもが20歳になるまで」とか「大学卒業まで」などと期限を決めて支払うことが一般的です。
しかし、たとえば、支払い途中で支払い義務者である元夫が死亡してしまったら、養育費の支払いはどうなってしまうのでしょうか?
養育費を支払ってもらえなくなると、子どもの今後の生活に大きな影響が出てしまうかもしれません。
こういった場合、元夫の相続人に養育費を請求することはできるのでしょうか。
養育費の支払い義務は「一身専属義務」
たとえば、離婚する際、元夫が毎月3万円の養育費を支払うと約束したとします。
すると、この養育費の支払い義務は、元夫だけに課されたものになります。
これを「一身専属義務」といいます。
この「一身専属義務」を負っている者が死亡すると、この義務は消滅し、相続人へ支払い義務が移ることはありません。
つまり、元夫の再婚相手である妻や子、元夫の親や兄弟姉妹に支払い義務が移ることはありません。
したがって、これらの者に養育費を請求することはできません。
この結果、今まで支払ってもらっていた毎月3万円の養育費を今後受け取ることができなくなってしまいます。
養育費に未払い分があると「一身専属義務」が否定される
しかし、養育費に「未払い分」がある場合は例外があります。
先ほどの話でいうと、毎月3万円の養育費を払う約束になっていたにもかかわらず、ここ最近3年間ずっと支払いが滞っていたような場合。
毎月3万円×12か月×3年=108万円
このような状態で、元夫が死亡した場合、この108万円は、すでに具体的な義務として発生しています。
こうした場合、さきほどの「一身専属義務」が否定され、すでに発生している養育費は通常の金銭債務として相続の対象となります。
そうすると、再婚相手や親など、元夫の相続人に滞納分の養育費を請求できる可能性があります。
ただ、ここで気をつけなければいけないのですが、請求可能なのは、未払いとして発生している分だけで、将来分まで請求できるわけでありません。
さきほどのケースでいえば、108万円は請求できるが、今後も毎月3万円、もしくは、残り全額を支払ってくれとは言えないということです。
子どもが相続人であった場合、法定相続分は請求できない
上記のように、すでに発生した養育費は、通常の金銭債務として相続の対象となりますが、ここで、養育費をもらっている「子ども本人も元夫の相続人である」という点に注意しなければなりません。
具体例を使って説明すると、
養育費の未払い額108万円
元夫が離婚後再婚し、再婚相手との間に子どもが1人いるケースで考えてみます。
この場合、未払いの養育費が合計で108万円ありますが、前妻との間の子は108万円全額を請求できるのでしょうか。
このケースでは、金銭債務(108万円)の法定相続分はそれぞれ次のようになります。
・前妻との子(養育費を受ける者)・・・4分の1 27万円
・再婚相手・・・4分の2 54万円
・再婚相手との子・・・4分の1 27万円
この場合、前妻との子は、自身の法定相続分を除いた、4分の3にあたる額、つまり、81万円を請求できることに留まります。
なぜ未払い分全額分の108万円を請求することはできないのでしょうか。
未払いの養育費を支払ってもらうべき前妻の子は、債権者(未払いの養育費を請求する者)の立場であり、同時に債務者(未払いの養育費の請求を受ける者)という相反する立場になります。
つまり、前妻の子は4分の1の27万円を自分で請求し、それを自分が受け取るということになってしまいます。
このように、権利を主張する者と義務を負う者が同一人となった場合、民法は、権利(債権)を原則として消滅させることにしています。
これを「混同」といいます。
民法第520条
債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
したがって、4分の1にあたる27万円は消滅するため、請求できる金額は108万円ではなく81万円に限られます。
以上から、元夫の死亡時前に払われるべきだった未払い養育費は自身の相続分を除いて請求できますが、これから支払われる予定であった養育費は請求できません。
前妻との子は元夫の財産を相続できる
このように、前妻との子は相続人として、一部養育費の未払金を受け取ることはできますが、将来分の養育費については支払ってもらうことはできません。しかし、前妻との子も元夫の相続人であることに変わりはなく、元夫の財産、たとえば、預貯金や不動産などの財産を相続することは可能です。
また遺族年金を受け取れる場合もあるので、元夫が亡くなってしまったら何も貰えなくなるという状況になることは少ないと考えられます。
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