養育費は放っておくと請求できなくなるの?

こんにちは、函館の行政書士 小川たけひろです。
未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、養育費について取り決めをすることが多いと思います。しかし、「養育費なんかいらないから、こんな夫とは一刻も早く離婚したい!」と、養育費の取り決めないままに離婚してしまう方がいらっしゃいます。
また、養育費を支払ってもらう約束はしたけど、最初の数回支払いがあっただけで、その後支払いが滞ってしまったという方もいらっしゃいます。
そして、養育費を受け受け取らずにしばらく時間が経ってしまったが、子どもが成長するとともに、家計の負担も大きくなり、やっぱり養育費を支払って欲しいと思うこともあるかもしれません。
そして、養育費を支払って欲しい相手に伝えたところ、「もう時効だから払わないよ」
と言われ、養育費をあきらめてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、そもそも、養育費の請求権が時効にかかることはあるのでしょうか?
養育費の請求に時効はあるの?

養育費は、子どもと一緒に暮らしていない親(「非監護親」といいます)から子どもと一緒に暮らしている親(「監護親」といいます)に対して支払われるものです。しかし、養育費の支払いがされていない状態が長期間に渡り、未払い分を請求していないと「時効」にかかることがあります。
時効とは、簡単にいえば「ある状態が一定期間継続することで権利を得たり喪ったりする制度」のことをいいます。
つまり、養育費が時効にかかるということは、「このまま養育費の未払いの状態が続くと、いつかは未払い分を請求できなくなりますよ」ということです。
では、その「いつか」とはどのくらいの期間をいうのでしょうか。
つまり、養育費の請求をどのくらいしていないと時効にかかるのでしょうか。
これについては、
- 「離婚の際に養育費支払いの取り決めをしていた場合」
- 「取り決めをしていなかった場合」
で変わってきます。
また、取り決めをしていた場合でも「どんな取り決め方をしたのか」その方法によって変わってきます。
養育費の取り決めをしていた場合
離婚協議書や公正証書などを作成した場合
離婚時に養育費の取り決めをしていて、その取り決め内容を離婚協議書や公正証書などに記載していた場合、養育費の支払い請求権発生しており、未払い部分については、「5年」で時効にかかります。
養育費は、原則、月ごとに支払い請求権(債権)が発生します。このような債権のことを「定期給付債権」といいます。そして、この定期給付債権は5年で消滅時効にかかります。
つまり、養育費は、毎月一定額ずつ発生していきますが、その後5年経つと、毎月古い債権から順番に消滅していきます。
たとえば、「令和5年9月から月々5万円の養育費を毎月月末までに支払う」という決めをしたとすると、令和5年9月の養育費は支払い期限の令和5年9月30日の翌日、令和5年10月1日から時効期間が始まり、令和10年9月30日を経過すると令和5年9月分の養育費については時効で消滅してしまいます。 このように毎月時効で養育費の請求権が消滅していくと、令和11年9月には合計60万円の養育費が消滅してしまう計算になります。
調停や審判、訴訟など裁判所の手続きを経て取り決めした場合
家庭裁判所の調停や審判、訴訟などの手続きを経て養育費の取り決めをした場合には、時効までの期間が10年に延びます。ここで注意が必要なのですが、時効が10年になるのは、これらの手続きで決定した時、すでに支払日を迎えていた未払いの養育費分に限られます。将来支払いが発生する分については、時効は5年になります。
口約束のみで取り決めした場合
では、養育費の支払いについて、口約束のみで離婚した場合、過去の養育費を請求できるのでしょうか。
このように口約束のみでも相手に養育費支払義務が生じます。
しかし、相手がそのような約束をしていないと主張した場合、その約束を証明できないため、過去の未払い分の養育費を請求できない可能性が大きいでしょう。
養育費の取り決めをしていない場合
離婚の際に養育費の取り決めをしていないという場合もあるでしょう。こうした場合、遡って養育費を支払ってもらうことは可能なのでしょうか?
こういった場合、相手(非監護親)が話し合いに応じて支払ってくれて、お互いが合意できれば問題ないのですが、こうしたケースはごく稀だと考えていた方が良いでしょう。
そして、養育費の取り決めをしていない場合、養育費の請求ができるのは、当事者の話し合いにより取り決めした以降、あるいは、調停や審判を申し立てて養育費について決定された場合は申し立てした日以降の分からとなります。つまり、過去に遡って請求はできません。
養育費を時効で消滅させないための手段はあるのか?
それでは、未払いの養育費がある場合、時効で消滅させないための方法はあるのでしょうか?
この点について、未払の養育費があっても、支払わないまま時効期間を過ぎれば、必ず消滅時効にかかって、請求できなくなるというわけでもありません。
その理由は、時効には、「更新」という、時効期間の進行を止め、時効期間を振り出しに戻すという制度があります。
この更新という制度を使って時効期間を振り出しに戻せば、当初の時効期間満了を迎えても時効の効力が発生することがなくなります。このことはつまり、未払い分の養育費の請求権が消滅しないということです。
3つの手続きを使って「更新」可能
養育費の時効は次の3つの手続きで更新させることができます。
裁判上の請求
たとえば、調停や裁判など裁判所の手続き行うと、時効を中断させることができます。この場合、時効期間が10年となります。
差押え・仮差押え・仮処分
相手の財産などへの仮差押や差押えの手続きにも更新の効果があります。すでに養育費調停・審判や離婚調停、離婚訴訟などで裁判所による決定が行われている場合や、公正証書を作成している場合、相手の給料などの財産を差し押さえると、時効が更新します。
債務承認
債務承認があると時効が更新します。債務承認とは、支払い義務者が「支払い義務があります」と債務の存在を認めることです。つまり、非監護親が「養育費の支払い義務があります」と承認することで時効が更新します。承認の方法は口頭でも誓約書などの書面、現実の支払いでもかまいません。
ただ、口頭だと、証拠としては弱いので、後日争いになる可能性があります。また、養育費の支払いを求められ、その一部でも支払いに応じると、承認に該当するためその結果更新が生じます。
時効が完成しそうな場合どうすれば良いのか
以上のように時効を更新させる方法はいくつかあります。
しかし、養育費を支払わないからといって、裁判を提起したり、仮差押さや差押えなどの手続きに踏み切るのは時間も費用もかかりなかなか大変でしょう。手続を進めていううちに、時効が完成してしまえば意味がありません。
こういった場合、一時的に時効の完成を遅らせる方法があります。それは「時効の一時完成猶予」という制度です。どういうものかというと、裁判外で、養育費を支払ってくれるよう請求すると、その時点から6か月間は時効が進まなくなるというものです。
たとえば、あと1週間で養育費の時効が完成してしまうというときに、裁判を起こすとか、仮差押えなどの手続きをすることは時間的にも無理があり、現実的ではありません。
そんな場合、一週間以内に相手に請求の意思を明確に伝えれば、そこから6か月以内に裁判または強制執行を猶予する期間が与えられる制度です。
ただ、この請求がいつ相手に届いたかが重要になり、時効完成の後に届いていれば意味がありません。
そのため、意思表示がいつ相手に到達したのかを確実に記録に残せる内容証明郵便でを使って送付すべきでしょう。
時効が完成したらどうにもならないのか
時効が成立しても、完成したという事実だけで養育費の請求権が消滅するわけではありません。支払義務者が「時効の援用」をするまでは、請求すること自体は可能です。
時効の援用とは、債務者(養育費の支払い義務者)が債権者(養育費を受け取る方)に「時効が完成したので返済しません」と意思表示をする手続きのことです。
そのため、相手が時効を援用しないかぎり、時効の効力は発生しません。
まとめ
この記事では養育費と時効についてお話しましたが、養育費は子どもの健全な成長のためには欠くことのできない大切なお金です。
離婚時に口約束だけで養育費の取り決めをしてしまうと、遡って支払ってもらうことは難しくなります。そのため、裁判不要で相手の給料や財産などに強制執行が可能となる公正証書など執行力と証拠力のある文書作成をしておくことをおすすめします。
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