行方不明の夫と離婚したいけど可能?

こんにちは、函館の行政書士 小川剛弘です。

夫が突然家を出てしまい、どこにいるのかはもちろん、行方も生死もわからない。何度も連絡を取ろうとしたが、携帯電話もつながらない。こんな状態が長期間続いてほとほと疲れてしまい、このような不安定な状態を抜け出して、新しい人生を生きていきたいと考えるのも自然なことでしょう。

また、配偶者がいない淋しさから、新しい異性に心のよりどころを求めてしまうこともあるかもしれません。こういった場合、新しい異性との将来を考えても、離婚していない状態では再婚することもできません。では、このような状態が続いた場合、行方も生死も不明の夫と離婚できるのでしょうか?できるとすれば、どのような場合で、どのような方法を取れば離婚できるのでしょうか。

行方不明の配偶者と離婚するには?

行方不明の配偶者と離婚するためにはどのような手続きが必要なのでしょうか?

配偶者の住所も生死もわからない状態であるため、当然、話し合いはできません。本来、夫婦が話し合いで離婚できない場合、調停を経て裁判という流れに沿って手続きを行いますが、配偶者が行方不明でるため、調停による話し合いが出来ず、いきなり裁判を起こすことになります。

ただし、裁判で離婚するには離婚原因が必要

裁判で離婚する場合には、法律(民法)で定められた離婚原因が認められなければなりません。それでは、配偶者が行方不明の場合、どのような離婚原因で離婚が認められることになるのでしょうか。

裁判で離婚が認められるために5つの原因「法定離婚事由」があります。

  • 不貞行為(770条1項1号)
  • 悪意の遺棄(同条項2号)
  • 3年以上の生死不明(同条項3号)
  • 強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと(同条項4号)
  • その他婚姻を継続し難い重大な事由があること(同条項5号)

3年以上の生死不明(民法770条1項3号)

お互い協力し合い、助け合うべき夫婦のどちらかが3年以上、生死が不明の状態が続いているということは、夫婦関係はすでに破綻したものと考えられ、これを離婚事由として訴えを起こすことが可能です。

ただし、生死不明、つまり、生きているか死んでいるかわからない状態であることが必要であり、生存していることは分かっているけれども、住所も連絡先もわからないというケースの場合は該当しません。

また、裁判所で離婚得お認めてもらうためには、生死不明な状態であるということを証拠を持って認めてもらうことになります。具体的な証拠としては、警察に捜索を依頼した場合の「捜索願受理証明書」や最後に受け取った手紙やハガキ(消印のわかるもの)、最後にやり取りしたメールやLINEの受信履歴などが証拠としてあげられます。

そのため、「行方不明なのに警察に捜索願を出していない」「どこに住んでいるのかは不明だが電話などで連絡は取れる」「「友人知人の目撃情報がある」といった事実がある場合は離婚を認めてもらうことは難しいでしょう。

「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)

「悪意の遺棄」と聞くと、「どこかの山奥に捨てられた」ような、何か犯罪を匂わせるイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、「悪意の遺棄」は基本的には、犯罪とは違います。

そして、この離婚原因である「悪意の遺棄」があったと認められれば離婚が認められることになります。

「悪意の遺棄」とは、具体的に言えば、「一方的に家を出ていってしまい戻らない」(同居義務違反)「生活費を入れてくれない」(扶助義務違反)「家事・育児に協力してくれない」(協力義務違反)など、民法が定める夫婦としての義務、「同居義務」、「協力義務」、「扶助義務」に違反する行為のことをいいます。

もう少し簡単に言えば、「夫婦の体を成していないほどの“ほったらかしの行為が”」があれば、離婚が認められる可能性があります。

生死がわからない状態が7年以上続いた場合は失踪宣告の申立てが可能

また、配偶者の生死不明が7年以上続いた場合は、家庭裁判所に失踪宣告の申立てをおこなって、失踪宣告がなされると配偶者は死亡したと扱われるため、離婚ではなく、婚姻関係が解消されることになります。そのため、失踪宣告がなされると、残された配偶者は再婚することも可能となります。

ここで、たとえば、再婚した後になって、行方不明者が突然帰ってきて、失踪宣告の取消をしたとしても、再婚関係には何の影響も与えません。つまり、「現在の婚姻関係が有効であり、行方不明者との婚姻関係は復活しない」ということになります。

もっとも、これは、再婚した夫婦の双方が、「行方不明者が生きていることを知らないで」再婚した場合に限られます。夫婦のどちらか一方でも、行方不明者が生きていることを知っていた場合には、失踪宣告の取消によって、行方不明者との婚姻関係が復活してしまい「重婚」とよばれる状態になり、非常に複雑で不安定な状態に陥ってしまうことにもなりかねません。

また、失踪宣告がされると、配偶者が死亡したと扱われるため、預貯金や不動産などの財産がある場合には相続することができます。また、受給要件を満たせば遺族年金の受取りが可能になります。

しかし、相続の場合も、失踪宣告の取消しがされると、「現に利益を受けている限度」つまり、その利益が残っている限度(現存利益)で返還義務が発生します。

勝手に離婚届を提出することは犯罪になるのでやめましょう!

上記のように、所定の期間を過ぎると離婚できる場合がありますが、「そんなに長く待てない、今すぐにでも離婚したい」と行方不明の配偶者の存在を無視して、勝手に離婚届を作成して役所に提出してはいけません。

離婚届は、夫婦双方の離婚の意思を表明する書面ですから、行方不明の配偶者に許可なく勝手に作成することは犯罪となりますので、絶対にやめましょう。

お気軽にお問い合わせください。0138-56-0438受付時間9:00~20:00(日祝日も受付ております。)

お問い合せはこちら 24時間対応