「死後離婚」という選択のメリットとデメリット

こんにちは、函館の行政書士 小川剛弘です。

最近、「死後離婚」という言葉をテレビや雑誌、ネットなどで見聞きした方もいらっしゃるかもしれません。「死後離婚」とは、配偶者の死後、「姻族関係終了届」を役所に提出することによって、配偶者の両親や義理の兄弟姉妹との関係を一方的に絶つという意味の造語です。この「姻族関係終了届」を提出する理由は様々ですが、では、この届出を提出することで、どのような効果が生まれるのでしょうか?またメリットやデメリットはあるのでしょうか?

「死後離婚」とは?

夫婦の一方が亡くなった場合は、婚姻関係は自動的に解消されたものとみなされます。しかし、ここで義理の両親や義理の兄弟姉妹のような姻族とよばれる人たちとの関係が問題になってきます。このような姻族関係の人達は、一般的に離婚すると、それとともに姻族関係も自動的に終了します。しかし、配偶者のどちらかが死亡して、離婚できなくなった場合、姻族関係が消滅することはありません。姻族との関係はその後も継続します。そこで、遺された夫婦の一方が、姻族関係を終了させる意思表示、つまり「姻族関係終了届」を提出することで、義理の両親、兄弟姉妹との関係を終わらせることができるのです。

そして、「姻族関係終了届」は、亡くなった配偶者の親族が姻族関係を終了させることを拒否していたとしても、相手に気付かれることなく提出することができます。こういったことから、離婚ではないけれど、離婚と同一の効果を得られることから「死後離婚」と呼ばれるようになったのかもしれません。最近になって周知が進んだことで「死後離婚」を選択する方が増加傾向にあるようです。

「姻族関係終了届」の提出は増加傾向

法務省の統計によると、「姻族関係終了届」の提出数は、平成23年は、1,975件だったのが、令和3年度には2,934件と増加傾向にあります。提出数が増えているのは、手続きが簡単であること、「死後離婚」という言葉とともに徐々に浸透してきたことが背景にあると考えられます。

届出は、戸籍謄本と配偶者の死亡証明書(戸籍謄本など)と印鑑(認印など三文判でOK)を用意して、本籍地または、現住所の市区町村の窓口に提出するだけです。また、提出期限もありません。配偶者が亡くなった後であればいつでも提出できます。

「姻族関係終了届」を提出する動機や理由

「死後離婚」つまり「姻族関係終了届」の提出を選択する人の理由は様々です。よくある嫁と姑のソリが合わないといったことや、義理の兄弟姉妹と合わない、墓の管理を一方的に押し付けられたなど、理由は、多種多様です。

その結果、「旦那の親と同じ墓には入りたくない」「旦那の一族と同じ墓に入るのは嫌だ」といった考えになっていきます。実際、お話を伺うと、かなりの割合で義理の親や兄弟姉妹と同じ墓に入ることに抵抗があるとおっしゃる方がいらっしゃいます。

「姻族関係終了届」の提出でどんなメリット、デメリットがあるのか?

では、「姻族関係終了届」を提出することにどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?

「姻族関係終了届」提出のメリット

メリットとしては、まず一番大きいのは“義理の両親や兄弟姉妹との関係を切ることができるということでしょう。義理の両親については、「姻族関係終了届」が受理された瞬間から金銭的な世話や、介護の必要もなくなるのです。

また、墓の問題についても、「旦那と一緒のお墓に入りたくない」 「ソリの合わない義理の両親と一緒のお墓に入りたくない」 という場合、その必要もなくなり、それと同時にお墓を管理する義務などもなくなります。

さらに、「姻族関係終了届」は、義理の両親、義理の兄弟姉妹との関係、つまり姻族との関係を終了させるだけの書類なので、亡くなった配偶者との関係は何ら変わらず、戸籍上に死別の事実が記載されるだけであり、除籍されるわけではありません。

遺産があれば、その遺産を相続する権利は有したままです。また、夫が生きている間に離婚した場合は、遺族年金を受給することはできませんが、死後離婚の場合は遺族年金の受給権は消滅しません。

「姻族関係終了届」提出のデメリット

メリットを見てみると、良いことばかりにも思えてきますが、デメリットもあるのでしっかり把握しておきましょう。

「姻族関係終了届」は一度提出して受理されてしまうと、また関係を戻したいと思っても、義理の両親と養子縁組でもしないかぎり、親族関係を回復させるということはできませんので慎重に考えましょう。

また、この届出をしたことによって、墓参りや法事などの連絡もこなくなってしまうことも有り得るので覚悟が必要です。また、今後何があっても義理の両親や兄弟姉妹を頼るということも難しくなることを覚悟すべきでしょう。

また、子どもと義理の両親との関係には注意を払う必要があります。自分が姻族と関係を切っても、子どもは祖父母とは血族になるため、関係はそのまま継続します。たとえば、「子の氏の変更許可申立書」「入籍届」を提出して子どもを自分の戸籍に入れたとしても、血族関係は継続したままで、相続権を失うこともありません。

つまり、子どもにとってのおじいちゃん、おばあちゃんが亡くなり、遺産が発生した場合、子どもは法定相続人として権利を主張することができます。しかし、可愛がっていた孫を、勝手に自分の戸籍に入れ、苗字までも変えられてしまった義理の両親にしてみれば、心中複雑であるかもしれません。子どもにも何かしらの不都合や影響が出る可能性があることも覚悟しましょう。

どんなに心情的に複雑な関係であっても、縁があって一度は家族になった者同士です。くれぐれも、一時の感情にまかせて届出をしてしまい、後悔することのないよう慎重に考えることが大切です。