離婚時に財産分与として退職金はもらえる?もらえない?

こんにちは、函館の行政書士 小川剛弘です。

近年、長年連れ添った夫婦が離婚する、いわゆる「熟年離婚」が増加していますが、年金分割と同時に、退職金を財産分与としてもらえるかが大きな関心事になっています。

退職金を財産分与に含めるかどうかで、離婚後の生活は大きく変わってきます。特にある程度の年齢になった夫婦が離婚する場合には、老後の生活も見据えた重要な関心事になるでしょう。

では、そもそも退職金は財産分与の対象となるのでしょうか?

給料やパート収入からの預貯金は、財産分与の対象となる

財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻中に築いたすべての財産が対象になります。

まず、夫婦の一方が仕事で得た給料や妻のパート収入などは財産分与の対象になるのでしょうか?

これについては、財産分与の対象となります。夫が会社から受け取っている給料から毎月積立をしていた場合や、妻がパートの収入を専用の通帳を作って積み立てをしていた場合も、夫婦の共有財産として財産分与の対象になります。

つまり、婚姻中に夫婦が得たお金を銀行などに預けて「預貯金」していた場合、原則として夫婦の「共有財産」になり、財産分与の対象となります。

【参考記事】「「財布は別々」な夫婦の財産分与はこじれると厄介」

退職金も財産分与の対象になるかはケースバイケース

では、退職金は財産分与の対象となるのでしょうか?

退職金は給料の後払いという性質をもち、婚姻中に夫婦が協力し、築き上げた共有財産といえます。そのため、退職金も財産分与の対象となりえます。たとえば、退職金がすでに支払われて現在も残っている場合は、財産分与の請求が可能です。

しかし、まだ支給されていない場合、特に、支給が何十年も先になるケースでは、財産分与の対象にならないこともあります。

退職金が財産分与の対象となる場合

それでは、どのような場合に財産分与の対象となるのでしょうか?

   退職金がすでに支給されている場合

   退職金支給前に離婚している場合

この2つのケースに分けて見てみます。

退職金がすでに支給されている場合

退職金をすでに受け取っているので、財産分与の対象となります。また、財産分与の対象となるのは、退職金以外の共有財産と同じく「婚姻期間に対応する部分だけ」です。

例えば、勤続年数が40年で、婚姻期間が30年の場合を考えてみましょう。勤続年数に対する婚姻期間の割合は75%(30年/40年)なので、退職金の75%を折半することになります。つまり、妻は退職金の37.5%を財産分与として請求することができるということです。

しかし、退職金の支給がされたのがかなり前で、離婚時に、すでに退職金が残っていない場合には、対象となる財産が無いので、財産分与の対象外となる可能性が高いでしょう。

退職金がすでに支給されている場合受け取れる金額の計算方法

退職金が既に支払われている場合、一般的には、次の計算式で財産分与の対象となる退職金額を計算します。なお、「婚姻期間」に別居期間は含めないとされています。

財産分与の対象額=支払われた退職金の額×婚姻期間÷勤続期間

基本的に、財産分与の割合は2分の1とするのがルールです。したがって、計算した金額の半分が、受け取れる退職金の金額となります。

【事例】退職金3000万円 婚姻期間20年・勤続期間30年のケースで計算してみましょう。

財産分与の対象額 3000万円×20年÷30年=2000万円

受け取れる金額:2000万円×1/2 =1000万円

退職金の支給前に離婚している場合

退職金が支給される前に離婚している場合には、退職金の財産分与は難しくなります。まだ支給されていない退職金は、常に財産分与として請求できるわけでありません。

この場合に退職金を財産分与してもらうためには、退職金が将来会社から支払われることが高い現実性(蓋然性)を持っている必要があります。

そのためには、そもそも勤務先の会社にきちんとした退職金の支給規程があり、退職金の制度が存在している必要があります。

そういった規程や制度に加えて、会社の経営状況が安定しており、配偶者が退職するまで倒産してしまう怖れがないこと。

たとえば、公務員であれば、役所が倒産するということは、あまり想像できないので、退職金が支給される確実性は高いといえます。会社員であれば、一般的には、大企業のほうが中小企業よりも倒産する怖れが小さいので確実性が高いといえます。

また、労働者として配偶者を見た場合、配偶者が退職金をもらえるまで、その会社で働き続けることができそうかなども判断の材料になります。たとえば何度も転職している人などは、退職金が出るまで働き続けているかは疑問です。

さらに、退職金が支給されるまでの期間も重要です。あと数ヶ月で退職するという場合であれば退職金が支払われる可能性が高く、退職金が財産分与の対象になる可能性が高まりますが、退職までに10年以上あるような場合、退職金が支払われることが現実化しているとは言いがたく、退職金が財産分与の対象になることは難しくなります。

このように、退職金が支払われていないうちに離婚した場合、退職金が財産分与の対象になるかどうか判断が難しいことがあります。

支給前に離婚している場合受け取れる金額の計算方法

退職金がまだ支払われていない場合、将来どのくらいの退職金が支払われるのかが、離婚時の段階でははっきりしていません。そのため、計算方法についてはいくつかの考え方があります。ここでは、代表的な2つの計算方法をご紹介します。

離婚時点で退職したと仮定して計算する

定年退職の時点ではなく、離婚時点で自己都合によって退職したと仮定し、支払われる退職金額を計算し、財産分与の対象額を計算する方法です。

財産分与の対象額=離婚時点で退職したとして支払われる退職金の額×婚姻期間÷勤務期間

受け取れる金額=財産分与の対象額×1/2

なお、別居している場合は離婚時点ではなく「別居を開始した時点」となります。

定年退職したとして、受取予定の退職金額で計算する

定年まで勤務したとして、退職時に受け取る予定の退職金額を計算し、財産分与の対象額を計算する方法です。将来の定年退職時の退職金を基準として離婚時に支払うとした場合、将来の退職金を現在の価値に引き直す必要があります。通常は、将来の定年退職時の退職金から中間利息を控除する方法で計算されることになります。具体的には、以下のように計算します。

財産分与の対象額=退職金×婚姻期間÷勤続年数×退職時までの年数のライプニッツ係数

受け取れる金額=財産分与の対象額×1/2

※ライプニッツ係数=中間利息の控除割合

まとめ

退職金が財産分与としてもらえるかどうかは、離婚後の生活を考えるうえで大きな関心事になります。特に「熟年離婚」を考えている夫婦にとっては、退職金は、年金分割とならんで離婚後の生活を支える大きな柱となり得ます。

婚姻中に築いた財産は、夫婦の「共有財産」とされ、離婚時に1/2ずつ清算されるのが基本です。退職金については財産分与の対象とされる場合と対象外になる場合があります。

離婚時にすでに退職金を受け取っている場合は財産分与の対象となりますが、まだ支給されていない退職金が財産分与の対象となるかどうかは、職場に退職金の支給規程があるかどうか、退職金が支給されるまでの期間、配偶者が退職金を支給されるまで働き続けることができるかなど、様々な要素を加味して蓋然性を判断しなければなりません。

また、財産分与として受け取れる金額の計算方法もご紹介しましたが、財産分与の計算方法は難易度が高く、専門家に相談するのも良いかもしれません。

【参考記事】

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