遺言書はどちらで作る? ~自筆証書or公正証書~

こんにちは、函館の行政書士 小川剛弘です。
無用な相続争いを防止して、円滑に遺産を承継させるために,非常に効果的な方法は遺言書を作成することです。また、遺言書を作成しておくことで、相続手続きを簡素化したり、時間短縮ができたりととても有益な効果をもたらします。
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの作成方式がありますが、一般的に使われているのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです。
では、遺言書を作成する場合、どちらの方式を選択すれば良いのでしょうか?
この記事では、自筆証書遺言と公正証書遺言、それぞれの特徴について説明し、どちらを選択すれば良いのかについてお話しいたします。
自筆証書遺言について

自筆証書遺言とは、遺言者が自筆(手書き)で作成した遺言書のことをいいます。
自筆証書遺言は紙と筆記用具、印鑑さえあれば、いつでも気軽に作成することができ、費用もかかりません。
そのため、遺言書を作成する場合、一番多く利用されています。ただし、文字が書けない方は、他人による代筆が認められていないため作成することができませんので注意が必要です。
自筆証書遺言作成する場合の5つの要件
① 遺言者が全文を自筆(手書き)する
自筆証書遺言は、遺言者自身によって全文を自筆(手書き)で作成しなければなりません。(ただし、法改正によって、財産目録についてのみパソコンでの作成可能となりました。)遺言者が口述した内容を自身以外の者が代筆して作成することはできませんので注意が必要です。
② 日付を記載する
作成した日付の記載が必要です。元号、西暦のどちらでも構いません。
「令和〇年○○月○○日」「20○○年○○月○○日」などと表記します。
また、「令和〇年○○月吉日」といった表記は無効になりますので注意が必要です。
③ 氏名を記載する
当然、遺言が誰によって書かれたものなのかわからなければ意味がありません。そのため、遺言書が誰によって書かれたものなのかを明確にし、作成者本人の意思を証明するために自筆によって氏名を記載します。氏名については、戸籍上のものでも通称でもかまいません。本人と識別できる氏名であるなら有効です。
④ 印鑑を押す
氏名の後に自身の印鑑で押印する必要があります。押印する場合、印影が不明瞭にならないようにしっかりと押すことが必要です。仮に、印影が消えていたり、ぼやけていたり、あるいは印影がない場合、遺言書が無効となってしまいますので注意が必要です。
印鑑については指定はなく、認印でも構いませんが、実印を押したほうが誰の印鑑であるかを特定しやすいので実印で押した方が良いでしょう。また、後々争いになった場合のことを考えて、遺言書を作成した日時点での本人の実印であることを証明するものとして印鑑証明書を添付しておくと良いでしょう。
また自筆証書遺言を封筒などに入れる場合、封印がなくても問題ありませんが、未開封であることを証明するためにも、封筒にも封印しておくと安心です。
⑤ 訂正する場合は印鑑を押し、どこを訂正したのかを欄外に記載し署名すること
民法では、遺言の内容を訂正する場合、遺言者がその場所を指示し、これを訂正した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければならないと定めています(民法968条3項)。
つまり訂正のための印を押し、欄外に訂正の内容や加除した文字等を記載します。なお、この方式が守られていない場合、その訂正は無効になりますが、遺言全体が無効になるわけではありません。
公正証書遺言について

公正証書遺言とは遺言者が公証人に遺言内容を伝え、公証人に遺言書を作成してもらう方式のことをいいます。
公正証書遺言作成のポイント
公正証書作成のポイントとしては大きく3つあります。
① 遺言者が公証人に内容を伝え、公証人が作成する
遺言者と公証人で事前に遺言内容の打ち合わせを行い、公証人があらかじめ原案を作成して、遺言作成当日に公証人が遺言者に遺言内容を確認し、最後に遺言者、証人、公証人がそれぞれ署名押印して完成となります。
遺言者が喋ることが難しい場合、筆談や手話によって作成することも可能です。しかし、認知症などの場合、遺言内容が本当に本人の意思なのか、だれかに強要されたものではないのかなど、疑念が生じるため、遺言書を作成することが難しくなります。
② 証人2人以上が必要
当日遺言書を作成する際、証人に立ち会っていただき、遺言書の内容を遺言者と一緒に確認し、署名押印します。
③ 費用と時間がかかる
自筆証書遺言を作成する場合、せいぜい、用紙代や筆記用具などの文具代が必要になるくらいで、ほとんどお金はかかりません。
しかし、公正証書遺言を作成するには、「必要書類を取得するための手数料」「公証役場手数料」等の費用がかかります。
公正証書遺言を作成する際、その内容により必要となる書類が変わり、申請窓口である役所も違ってきます。そのため、自分で入手しようとすると、時間がかかってしまうこともあります。
また、必要書類を入手するときに、交付手数料がかかります。
公証役場手数料は、遺言対象の財産の価額(目的の価額)をもとに計算されます。
手数料額についてはこちら
以上のように、自筆証書遺言は5つの要件に注意すれば、簡単に作成できますが、公正証書遺言を作成する場合、公証人に作成を依頼する必要があるだけでなく、2人の証人や数多くの戸籍謄本等の必要書類を集める必要がある、公証役場に支払う手数料が必要など、時間と費用がかかります。
実際に相続が開始したときの違い

では、実際に相続が開始したときに自筆証書遺言と公正証書遺言ではどのような違いがあるのでしょうか。
裁判所による検認が必要かどうか
自筆証書遺言は遺言者死亡後、相続人が裁判所での「検認」の手続きを経ないで勝手に内容を確認することはできません。検認は、遺言書が遺言者本人によって作成されたことを確認するための手続です。
一方、公正証書遺言は証人2名と公証人にが遺言作成に関わっており、亡くなられた本人が作成した遺言書であることは確認されているので、検認手続きは必要ありません。
また、自筆証書遺言であっても、2020年7月から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用することにより、検認手続きを省略することができるようになりました。
遺言書の存在が確認できるかどうか
公正証書遺言は、作成後原本が公証役場に保管されます。これに対し、自筆証書遺言は、自宅や貸金庫等に保管されることが多いです。そのため、相続人が遺言書を見つけることができず、せっかく遺言書を作成したにもかかわらず、その気持ちが伝わらない可能性があります。
しかし、自筆証書遺言書保管制度を利用すると法務局で保管されるので、発見されないというリスクは少なくなります。
改ざん隠匿の可能性があるかどうか
上述のとおり、公正証書遺言は公証役場に保管されるため、改ざんや隠匿の危険は皆無です。これに対し、自筆証書遺言の場合、自宅などに保管されることが多いため、改ざん隠匿のリスクが高くなります。しかし、これも自筆証書遺言書保管制度を利用することで改ざん隠匿のリスクはほぼ無くなるでしょう。
無効になる可能性があるかどうか
公正証書遺言は、公証人が作成しているため無効になる可能性は低くいでしょう。
これに対し、自筆証書遺言の場合は、第三者のチェックがないので、書類の不備や内容が法律に触れている場合には効力が発生しないという危険性があります。
自分の意思を確実に伝えたいなら公正証書遺言がおススメです
以上のように自筆証書遺言と公正証書遺言の特徴と違いをお話してきましたが、
確実に自分の意思を遺そうと思ったら、やはり公正証書遺言の作成をお薦めします。
ただ、しっかり5つの要件が守られていて、内容が法律に抵触していない、内容を証明できる書類が揃っている、改ざん隠匿の危険がないなど不安リスクがクリアできれば、手間と費用を節約できるため、自筆証書遺言にもメリットはあります。
以上のように、自筆証書遺言、公正証書遺言のどちらにもメリット・デメリットがあります。ご自身の状況に応じて選択されると良いでしょう。
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